ザイザル®錠とジルテック®錠に違いは? -論文読んで業務負担を軽減ー
~ついでに鏡像異性体とかも勉強~
アレルギー治療薬の2種の成分名
ザイザル(販売開始2010年12月) → レボセチリジン
ジルテック(販売開始1998年9月)→ セチリジン
あれ? ザイザルとジルテックは一部同じ名前が入ってる?
でも「レボ」が付いてるから違うの?
組成式を比較してみましょう
※化学をやってないとなかなか理解が難しいですかね(;^_^)
レボセチリジンの分子式 → C21H25ClN2O3・2HCl
セチリジンの分子式 → C21H25ClN2O3・2HCl
全く同じですね...
何が違うのでしょうか?
構造が違うんですね。これを鏡像異性体(エナンチオマー)といい、鏡像異性体をもつ化合物をキラル化合物といいます。
セチリジンは鏡像異性体が混在している状態でこれをラセミ体といいます。詳しく言うとセチリジンはもう片方の鏡像異性体のデキストロセチリジンとレボセチリジンが1:1で混ざっている状態です。
鏡像異性体って?
「鏡像」と入っています。物が鏡に映っている状況と同じという意味です。
右手と左手の関係とも言えます。なので対掌体とも言います。
同じ「手」なんですが、どんなに回転させても重ね合わせることができない状態。
鏡像異性体だと性質が違うの?
例えば身近なものですと味の素。
味の素の成分はL −グルタミン酸です。鏡像異性体としてD-グルタミン酸が存在しますが舐めても旨味を感じません。
レボセチリジンとデキストロセチリジン違い(ザイザル®インタビューフォームより引用)
「レボセチリジンは、もう 1 つのエナンチオマーであるデキストロセチリジンと比べ、ヒトヒスタミン H1 受容体に対する親和性が 30 倍高く、解離速度は緩徐である(解離半減時間はデキストロセチリジンの 7 分に対してレボセチリジンでは 115 分)。」
つまりよりくっつきやすく、離れにくいんですね。
ではレボセチリジンとセチリジン(ラセミ体)の効果に差はあるのでしょうか?
セチリジン(ラセミ体)とレボセチリジンとデキストロセチリジンの効果を検討した論文があります。
A randomized, double-blind, crossover comparison among cetirizine, levocetirizine, and ucb 28557 on histamine-induced cutaneous responses in healthy adult volunteers. PMID: 11167352
セチリジン5㎎、レボセチリジン2.5㎎、デキストロセチリジン2.5㎎(ucb28557)を比較してます。
セチリジン5㎎とレボセチリジン2.5㎎はほぼ同等、デキストロセチリジン2.5㎎はほぼ効果無しという結果でした。
セチリジン5㎎はレボセチリジンとデキストロセチリジンが1:1入っているラセミ体、つまりセチリジン5㎎とレボセチリジン2.5㎎は同じなんですね。
添付文書の用法用量を見てみると
ジルテック®:
通常、成人にはセチリジン塩酸塩として1回10mgを1日1回、就寝前に経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減するが、最高投与量は1日20mgとする。
ザイザル®:
通常、成人にはレボセチリジン塩酸塩として1回5mgを1日1回、就寝前に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、最高投与量は1日10mgとする。
ザイザルはジルテックの半分の設定になっていますね。
同じなら断然ジルテックの方が使い勝手がいいです。
なぜならバラ包装があるから!
10㎎の規格にはプラスチックボトル500錠包装があります。
エナンチオマーは、融点、沸点、密度などの、通常のほとんどの物理化学的性質は同じはずで、インタビューフォームでの試験結果にも差は無いのですが、なぜか包装が違うんです。
参考
ジルテック®:25℃/85%RH/暗所/褐色ガラス瓶(開栓)/3 ヵ月 → 変化なし
ザイザル® :25℃/60%RH/バルク包装/24 ヵ月 → 変化なし
ザイザル®は防湿性、ガスバリア性、遮光性などに優れたコールドフォーム(CF)包装のみですが、ジルテック®は普通のPTPシートとプラスチックボトルがあります。ザイザル®の販売開始は2010年12月でもう10年近く包装を変更しないところを見るとこのままいくのでしょう。
ジルテックは既にジェネリックも販売され、バラ包装を採用しているジェネリックメーカーもあります。
購入額も抑えられ且つ業務負担軽減にもつながります。
新薬だといかにも効果が高いように宣伝されがちですが、ただ不純物を取り除きました程度のマイナーチェンジです。論文を読むとそれがわかります。論文を読んで無意味な業務負担を減らしましょう。