薬局業務日誌

薬局で役に立つ情報を綴っていきます。

特定の医療だけが医療費を圧迫していると結論出来るデータは無かった。~データヘルス計画書を読む~

・終末期医療や透析だけが医療費を圧迫しているというのは本当か?

 最近、若い著名人や医師からも「終末期医療はムダである」ともとれるような発言が相次ぎました。また以前にはアナウンサーが、直接のタイトルは非人道的な表現のため変えましたが、「透析は自己責任」などのような趣旨の記事が書かれたこともありました。

 発言した方々は根拠となる出典を示しておらず、自分も医療費に関して無知であったので、現在の医療費がどのような内訳になっているのか調べてみました。その中に都道府県・市町村単位で国保のレセプトデータから医療費の集計・解析結果をまとめたデータヘルス計画書というものがあることを知りました。この計画書には高額レセプト・疾病別・年齢別医療費の内訳、そのほかにも後発医薬品の集計などがまとめられていました。作成することが決められているようでどの自治体でも同様の構成でした。データが見つからなかった地域もありましたがなるべく日本全体を反映するように、北海道・関東・北陸・関西・中国地方の情報を集めてみました(九州と四国地方自治体で同様のものが見つかりませんでした。恐らく存在します。自分が探しきれなかっただけです)。

 まず彼らの主張する「終末期医療」や「透析」といった一部の医療が本当に医療費の大半を占めているのか?を各自治体のデータヘルス計画書で見ていきましょう。表1に疾病別医療費割合を示しました。


表1 疾病別医療費割合上位10疾患

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 どの疾患においても医療費の占める割合に桁が違うほどの差はみられませんでした。「透析」の含まれる腎不全が各自治体で特別大きな割合は占めていません。「終末期医療」と関連する可能性の高いガンも同様でした。この結果はある特定の治療だけやめても医療費を削ることはできないということを示しています。

 

・医療費の増加要因は高齢化と薬剤費だった

 H27年度の医療費の伸び率3.8%の内、1.2%が高齢化の影響、1.22%が内服薬と厚生省による分析結果が示されました(医療費の伸びの要因分解より)。内服薬の内、抗ガン剤の伸びが最も高く0.77%でした。抗ガン剤の例を表2に示しました。


表2 抗ガン剤とその薬価

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 私が薬剤師になる前からあるタキソテールでもまだ1万円を超えています。さらに近年販売が相次いでいる遺伝子組み換え製剤は高額になる傾向で、いろいろな面で取りざたされた記憶に新しいオプジーボは10万位円以上です。今後もこの傾向は続いていくことが予想されます。

 表1を見ると腎不全や統合失調症・ガンは1人当たりの医療費が高い疾患であることがわかります。これらの疾患は抗ガン剤費のように1件の医療費が高額なレセプトが含まれています。表3に医療費上位6疾患の内、高額レセプトの要因となる疾患を示しました。


表3 高額レセプト要因疾患ランキング(総医療費)

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 腎不全と肺がんがどの自治体でも上位にランクインしています。心血管疾患、脳血管疾患も上位にランキングしている自治体は多いです。

 データヘルス計画書では1件5万点のレセプトを高額レセプトと定義しているようでした。日本の医療は公定価格と言って、診察・検査・ケア・薬剤などの医療行為の価格が全て国で決められています。全ての医療行為に1つずつ点数が付いており、1点が10円の設定になっています。5万点なので50万円です。表4は1つの医療行為で50万円以上かかる医療が全医療費に占める割合を示しています。

 

表4 高額(5万点以上)レセプト件数及び割合

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 全レセプトの1%未満の医療行為が全医療費の約30%を占めていました。この傾向はどの自治体でも同様でした。1つの高額な医療が医療費の大きな割合を占めているようです。続いて、高額レセプトでかかる医療費の総医療費に対する割合を年齢別に見てみましょう。表5は高額レセプトを年齢別に表したものです。

 

表5 年齢階層別高額レセプト割合

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 どの自治体でも同様の傾向で、65歳以上のみで総医療費の約50%を占めていました。年齢別の疾患割合のデータもありましたが、データがそろっている自治体は少数でした。傾向として15歳未満は先天性疾患・呼吸器疾患、15歳以上40歳未満は精神疾患、40歳以上は心血管疾患・ガンが多いです。

 少し話がそれますが、1件が1000万円以上の超高額レセプトもあります。図1は1000万円以上のレセプトの年次推移を示しています。

図1

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 約300件だった件数が4年間で約1.5倍の450件を超えています。年々増加傾向です。超高額レセプトの増加も今後大きく影響してくると思われます。

 ここまで見てきて、彼らの発言にあるように1つの医療が主因であると結論付けられるようなデータは存在しませんでした。伸び率も高齢化と薬剤費の影響が大きいものの医療費の増加は多くの要素が絡んでいました。多くの要素が絡む問題ですから何か1つ行えばすぐに解決できる問題ではありません。例えばジェネリック医薬品。これだけで解決など程遠いですがそれでもやらないよりはましでしょう。こういった地道なことの積み重ねでしか解決できないように思います。

下剤を使用しすぎると大腸がんになりますか?

・Melanosis coli (大腸メラノーシス)とは?

Melanosis coliは結腸壁の色素沈着です。この黒色色素は実はメラニンではなく、損傷を受けて死んだ細胞がマクロファージにより取り込まれたものです。

 

Melanosis coliの発生頻度を調査した研究が日本から2本ありました。

  1. Analysis of 6,293 routine proctosigmoidoscopies.  PMID: 960093
  2. 大腸黒皮症の臨床的及び内視鏡的検討 北里医学17:491〜496 , 1987

 

1の報告は1962年から1974年までの間に東北大学病院で行われた6,293例の直腸S状結腸鏡検査の報告・分析です。6293例のうち57例のmelanosis coliが発見されたと報告しています。

2の報告では昭和52年1 月から昭和62 年3 月までに大腸内視鏡を行なった7479 例について,内視鏡的に大腸黒皮症と診断されたのは83例だったと報告しています。

両報告とも頻度は約1%程度です。100人いれば1人はいるわけですからなかなか身近な症例ではないでしょうか。

 

Melanosis coliのリスク因子として有名なのがアントラキノン系便秘薬であるセンナ・センノシドやアロエです。アントラキノン系便秘薬とmelanosis coliの関係を調査した論文があります。

Anthranoid laxative use is not a risk factor for colorectal neoplasia: results of a prospective case control study.  PMID: 10764708

表1 アントラキノン系下剤の使用とmelanosis coliの関連

 

使用している(n=78)

使用していない(n=476)

オッズ比(95%CI)

内視鏡検査

9(12%)

11(2%)

5.5 (2.2–13.7)

顕微鏡検査

31(40%)

68(14%)

4.0 (2.4–6.7)

 

アントラキノン系便秘薬によるmelanosis coliのリスクは使用していない場合の2倍以上です。

前述しましたがこの色素沈着はメラニンではなく細胞の損傷によるものでした。

・大腸癌との関連は?

細胞の損傷と聞くと癌との関連が気になりますよね。ですが、上述の論文では否定しています。

 

表2 癌とmelanosis coliの関連

 

Control

腺腫

癌腫

 

N(%)

N(%)

OR(95%CI)

N(%)

OR(95%CI)

Melanosis coli(内視鏡)

7(2.9)

5(4.4)

1.5(0.5-4.9)

8(4.0)

1.4(0.5-3.8)

Melanosis coli(顕微鏡)

28(12)

23(20)

1.9(1.0-3.5)

48(24)

2.3(1.4-3.9)

 

もう1つの論文もご紹介します。

Constipation, anthranoid laxatives, melanosis coli, and colon cancer: a risk assessment using aberrant crypt foci.  PMID: 12163329

この論文においてはS状結腸癌、憩室炎とアントラキノン系便秘薬の使用・便秘の既往・melanosis coli

関連を調査しており、特に関連はみられなかったと結論付けていました。

 

癌との関連は現時点で薄いようです。

しかし大腸壁を損傷させていることは間違いないので出来るのであれば連用は避けたいところです。

 

では他に代替法があるのか?

それはまた別の機会に書きたいと思います。

ザイザル®錠とジルテック®錠に違いは? -論文読んで業務負担を軽減ー

~ついでに鏡像異性体とかも勉強~

アレルギー治療薬の2種の成分名

ザイザル(販売開始2010年12月) → レボセチリジン

ジルテック(販売開始1998年9月)→   セチリジン

 

あれ? ザイザルとジルテックは一部同じ名前が入ってる?

でも「レボ」が付いてるから違うの?

 

組成式を比較してみましょう

※化学をやってないとなかなか理解が難しいですかね(;^_^)

レボセチリジンの分子式 → C21H25ClN2O3・2HCl

セチリジンの分子式   → C21H25ClN2O3・2HCl

全く同じですね...

 

何が違うのでしょうか?

構造が違うんですね。これを鏡像異性体(エナンチオマー)といい、鏡像異性体をもつ化合物をキラル化合物といいます。

セチリジンは鏡像異性体が混在している状態でこれをセミといいます。詳しく言うとセチリジンはもう片方の鏡像異性体のデキストロセチリジンとレボセチリジンが1:1で混ざっている状態です。

 

鏡像異性体って?

「鏡像」と入っています。物が鏡に映っている状況と同じという意味です。

右手と左手の関係とも言えます。なので対掌体とも言います。

同じ「手」なんですが、どんなに回転させても重ね合わせることができない状態。

 

鏡像異性体だと性質が違うの?

例えば身近なものですと味の素

味の素の成分はL −グルタミン酸です。鏡像異性体としてD-グルタミン酸が存在しますが舐めても旨味を感じません。

 

レボセチリジンとデキストロセチリジン違い(ザイザル®インタビューフォームより引用)

「レボセチリジンは、もう 1 つのエナンチオマーであるデキストロセチリジンと比べ、ヒトヒスタミン H1 受容体に対する親和性が 30 倍高く、解離速度は緩徐である(解離半減時間はデキストロセチリジンの 7 分に対してレボセチリジンでは 115 分)。」

つまりよりくっつきやすく、離れにくいんですね。

 

 

ではレボセチリジンとセチリジン(ラセミ体)の効果に差はあるのでしょうか?

セチリジン(ラセミ体)とレボセチリジンとデキストロセチリジンの効果を検討した論文があります。

A randomized, double-blind, crossover comparison among cetirizine, levocetirizine, and ucb 28557 on histamine-induced cutaneous responses in healthy adult volunteers.  PMID: 11167352

 

セチリジン5㎎、レボセチリジン2.5㎎、デキストロセチリジン2.5㎎(ucb28557)を比較してます。

セチリジン5㎎とレボセチリジン2.5㎎はほぼ同等、デキストロセチリジン2.5㎎はほぼ効果無しという結果でした。

セチリジン5㎎はレボセチリジンとデキストロセチリジンが1:1入っているラセミ体、つまりセチリジン5㎎とレボセチリジン2.5㎎は同じなんですね。

添付文書の用法用量を見てみると

ジルテック®:

通常、成人にはセチリジン塩酸塩として1回10mgを1日1回、就寝前に経口投与する。

なお、年齢、症状により適宜増減するが、最高投与量は1日20mgとする。

ザイザル®:

通常、成人にはレボセチリジン塩酸塩として1回5mgを1日1回、就寝前に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、最高投与量は1日10mgとする。

ザイザルはジルテック半分の設定になっていますね。

 

同じなら断然ジルテックの方が使い勝手がいいです。

なぜならバラ包装があるから!

10㎎の規格にはプラスチックボトル500錠包装があります。

エナンチオマーは、融点、沸点、密度などの、通常のほとんどの物理化学的性質は同じはずで、インタビューフォームでの試験結果にも差は無いのですが、なぜか包装が違うんです。

参考

ジルテック®:25℃/85%RH/暗所/褐色ガラス瓶(開栓)/3 ヵ月 → 変化なし

ザイザル® :25℃/60%RH/バルク包装/24 ヵ月 → 変化なし

 

ザイザル®は防湿性、ガスバリア性、遮光性などに優れたコールドフォーム(CF)包装のみですが、ジルテック®は普通のPTPシートとプラスチックボトルがあります。ザイザル®の販売開始は2010年12月でもう10年近く包装を変更しないところを見るとこのままいくのでしょう。

 

ジルテックは既にジェネリックも販売され、バラ包装を採用しているジェネリックメーカーもあります。

購入額も抑えられ且つ業務負担軽減にもつながります。

 

新薬だといかにも効果が高いように宣伝されがちですが、ただ不純物を取り除きました程度のマイナーチェンジです。論文を読むとそれがわかります。論文を読んで無意味な業務負担を減らしましょう。

バファリンA81とバイアスピリンの違いは? -論文読んで業務負担を軽減ー

~ついでに製剤学もご一緒に~

低用量アスピリン錠剤は主に2系統あります。

配合錠系バファリンA81、ファモター配合錠A81等)

腸溶錠系(バイアスピリンアスピリン腸溶錠「※後発品メーカー名」等)

配合錠系アスピリンと緩衝制酸剤のダイアルミネート(アルミニウムグリシネート・炭酸マグネシウム)を合剤にしたもの

腸溶錠系アスピリンをpH5.5以上で溶解するメタクリル酸コポリマーLDでコーティングした腸溶錠

この製剤的工夫はアセチルサリチル酸アスピリン)が胃酸により加水分解されるのを防ぐための工夫です。

では何故加水分解されるとマズいのか? 

加水分解されるとサリチル酸ができます。サリチル酸のpKaは2.78。身近な食用の酸であるお酢のpKaが4.76です。お酢の100倍の酸性度があります!かなり強い酸なので喉などの粘膜を痛めてしまいます。そのため加水分解されない工夫が必要となっているのですね。

しかし、この2つの製剤学的工夫、使い勝手の良さに差がついてしまいました。

ダイアルミネート配合錠は湿度変化が大きいです。

下記バファリンA81インタビューフォームより。

条件:無包装、25℃/湿度75%RH シャーレ(開放)、保存期間1か月

→ 1週間後に性状(外観)変化(濃い橙色の斑点あり)。サリチル酸量増加、1カ月後に 1.4%(規格内)。アスピリン含量1カ月後に2.2%低下(規格値内)。

対してバイアスピリンはというと(インタビューフォームより)

条件:30℃ /湿度80%RH 6ヵ月 褐色ガラス瓶(開放)6ヵ月保存

サリチル酸のわずかな増加(0.9%:規格範囲内)。硬度が高くなる傾向。他の項目では変化はなく、湿度に対して安定。

このように配合錠系は湿度に不安定である為、防湿性、ガスバリア性、遮光性などに優れたアルミSP包装(アルミ箔に低密度ポリエチレンなどの熱可塑性高分子フィルムを重ねたラミネートフィルムで作られたヒートシール型の包装形態)となっています。

これが扱いづらい...

一包化が必要な方の場合、分包紙に1錠ずつ貼り付ける必要が出てしまいます...

非常に手間です...

服用する際もちぎって包装から出さなければならないのでまた手間です...

 

腸溶錠系なら

他の錠剤と一緒に一包化することができます!

さらにバラ包装の採用もあるため自動分包機を使用することができます!

機械と手作業、業務効率に雲泥の差が出ます。

疑義照会して変更されては如何?

アスピリンが81mgと100mgで効果が違うのではと思った方、いるかもしれません。心血管イベント予防に差は無かったそうです。下記の論文を参照ください。アスピリンジレンマなんて無いことにも気が付かれると思います(ヒントFig.6)。

Collaborative meta-analysis of randomised trials of antiplatelet therapy for prevention of death, myocardial infarction, and stroke in high risk patients.  PMID: 11786451

もっと光が当たってもいいと思う医薬品 ~ ナブメトン ~

 ナブメトン...? 

聞いたことがないという方は多いのではないでしょうか。私も一度も触れたことがありません。在庫を持っていた店舗もありません(薬剤師歴約10年)。存在を知ったのはガン緩和ケア関連の書籍。その書籍にはアメリカでは最も使用されていると書かれてました。聞いたことがなかったので日本で販売されているの?と思い、調べたところ商品名レリフェン錠400mgで販売されていました。

 

レリフェンの添付文書より

 

効能又は効果

下記疾患並びに症状の消炎・鎮痛

関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、頸肩腕症候群、肩関節周囲炎

用法及び用量

通常、成人にはナブメトンとして800mgを1日1回食後に経口投与する。
なお、年齢・症状により適宜増減する。

 

1日1回でいいんですね。

 

薬物動態情報:約4時間で最高血中濃度に達し、約21時間の半減期

 

半減期はメロキシカム(モービック®)と同じぐらいですね。平成28年のNDBデータではモービック®は21位(ジェネリックも含めて)。ちなみにレリフェン®は圏外。

 

肝心の臨床データはどうでしょうか。

  • Safety and efficacy of nabumetone in osteoarthritis: emphasis on gastrointestinal safety.

PMID: 10759624(全文見れます)

2.A controlled study comparing the effects of nabumetone, ibuprofen, and ibuprofen plus misoprostol on the upper gastrointestinal tract mucosa. PMID: 8239849(全文見れず...)

1は徐放性ジクロフェナクとさらに半減期の長いピロキシカム半減期:約40時間)と比較してます。2はイブプロフェン半減期:約2時間)との比較です。

1の文献では鎮痛効果は3種とも同程度、消化管出血はナブメトンが低いという結果でした。2の文献は主に消化管出血リスクを評価しており、イブプロフェンより少ないという結果でした。

 

イブプロフェンと同等の安全性で、半減期も長い。疼痛コントロールは徐放性の方がいい。1日1回なら患者さんも調剤も楽。いいことだらけ?

モービック®10mg (1錠52.6円)/レリフェン®400mg(2錠で64円)値段もそんなに変わらないのにモービック®の方が使用量が多いのは?

もっと使用されてもいい薬だと思う。