薬局業務日誌

薬局で役に立つ情報を綴っていきます。

下剤を使用しすぎると大腸がんになりますか?

・Melanosis coli (大腸メラノーシス)とは?

Melanosis coliは結腸壁の色素沈着です。この黒色色素は実はメラニンではなく、損傷を受けて死んだ細胞がマクロファージにより取り込まれたものです。

 

Melanosis coliの発生頻度を調査した研究が日本から2本ありました。

  1. Analysis of 6,293 routine proctosigmoidoscopies.  PMID: 960093
  2. 大腸黒皮症の臨床的及び内視鏡的検討 北里医学17:491〜496 , 1987

 

1の報告は1962年から1974年までの間に東北大学病院で行われた6,293例の直腸S状結腸鏡検査の報告・分析です。6293例のうち57例のmelanosis coliが発見されたと報告しています。

2の報告では昭和52年1 月から昭和62 年3 月までに大腸内視鏡を行なった7479 例について,内視鏡的に大腸黒皮症と診断されたのは83例だったと報告しています。

両報告とも頻度は約1%程度です。100人いれば1人はいるわけですからなかなか身近な症例ではないでしょうか。

 

Melanosis coliのリスク因子として有名なのがアントラキノン系便秘薬であるセンナ・センノシドやアロエです。アントラキノン系便秘薬とmelanosis coliの関係を調査した論文があります。

Anthranoid laxative use is not a risk factor for colorectal neoplasia: results of a prospective case control study.  PMID: 10764708

表1 アントラキノン系下剤の使用とmelanosis coliの関連

 

使用している(n=78)

使用していない(n=476)

オッズ比(95%CI)

内視鏡検査

9(12%)

11(2%)

5.5 (2.2–13.7)

顕微鏡検査

31(40%)

68(14%)

4.0 (2.4–6.7)

 

アントラキノン系便秘薬によるmelanosis coliのリスクは使用していない場合の2倍以上です。

前述しましたがこの色素沈着はメラニンではなく細胞の損傷によるものでした。

・大腸癌との関連は?

細胞の損傷と聞くと癌との関連が気になりますよね。ですが、上述の論文では否定しています。

 

表2 癌とmelanosis coliの関連

 

Control

腺腫

癌腫

 

N(%)

N(%)

OR(95%CI)

N(%)

OR(95%CI)

Melanosis coli(内視鏡)

7(2.9)

5(4.4)

1.5(0.5-4.9)

8(4.0)

1.4(0.5-3.8)

Melanosis coli(顕微鏡)

28(12)

23(20)

1.9(1.0-3.5)

48(24)

2.3(1.4-3.9)

 

もう1つの論文もご紹介します。

Constipation, anthranoid laxatives, melanosis coli, and colon cancer: a risk assessment using aberrant crypt foci.  PMID: 12163329

この論文においてはS状結腸癌、憩室炎とアントラキノン系便秘薬の使用・便秘の既往・melanosis coli

関連を調査しており、特に関連はみられなかったと結論付けていました。

 

癌との関連は現時点で薄いようです。

しかし大腸壁を損傷させていることは間違いないので出来るのであれば連用は避けたいところです。

 

では他に代替法があるのか?

それはまた別の機会に書きたいと思います。