薬局業務日誌

薬局で役に立つ情報を綴っていきます。

薬剤溶出性ステントは従来のベアメタルステントに比べて優れていますか?

 冠動脈ステント留置術歴のある老健施設入所者の処方を見直す機会がありました。薬剤溶出性ステントは病院実習の課題にしていました。実習先は循環器病センターでちょうどステント留置後の抗血栓療法におけるクロピドグレルの臨床試験を行っておりデータも豊富だった為、題材にさせて頂いたという経緯があり興味が強かったので調べてみました。


 DES(Drug-Eluting Stent)、BMS(Bare-Metal Stent)で検索しました。


<論文のタイトルと出典>
Long-term outcome after drug-eluting versus bare-metal stent implantation in patients with ST-segment elevation myocardial infarction: 5 years follow-up from the randomized DEDICATION trial (Drug Elution and Distal Protection in Acute Myocardial Infarction).
PMID: 23683734


<情報の吟味>
 Methodsに「Patients were randomly assigned」と記載有り。BMSと比較し、50%のイベント減少を想定し、80%の検出率でサンプルサイズを計算した結果、サンプル数は約600人と算出し、両群それぞれ各313人と設定している。


P: 発症後12時間未満のST上昇を呈する冠動脈高度狭窄及び閉塞を有する患者626人
E: DES(薬剤溶出性ステント)留置
C: BMS(ベアメタルステント)留置
O: 心臓死、非致死性再心筋梗塞、標的病変の再灌流処置(TLR)


<手順の詳細>
処置室ではアスピリン300~500mg、クロピドグレル300~600mg、未分画ヘパリン1万Uで処理している。処置後の投与薬物はクロピドグレル75mg/日(1年間投与)、スタチン、アスピリン100mg/日無期投与。


DESの種類:
47%がシロリムス溶出、40%がパクリタキセル溶出、13%がゾタロリムス溶出
BMSの種類:38%がコバルト合金、62%がステンレススチール


<結果>
※8が月後、3年後、5年後で数値を出している。

Outcome

DES(vs BMS: p Value) n=313

BMS n=313

Follow

8month

3year

5year

8month

3year

5year

Death

16(0.14)

33(0.08)

51(0.17)

8

20

38

Cardiac death

13(0.09)

19(0.01)

24(0.02)

5

6

10

MI

5(0.42)

9(0.58)

17(0.41)

8

15

23

TLR

16(0.001)

19(0.001)

21(0.001)

41

51

52


 TLRが既に8カ月の時点でBMSが優位に多く、DESはBMSと比較して再狭窄を起こしにくいという理論上の有用性が証明されました。
 ただ、非常に疑問を感じるデータも示されています。悪性不整脈、心原性ショック、進行性心不全による心臓死がDESで優位に多いこと、MI発生率に差が無いことです。再灌流術の回数が増えることによるリスクも考慮する必要がありますが、再灌流を定期的に行いさえすればMI発症率は同じという結果に疑問を感じます。


 この心臓死の増加の要因はあるのか?あるとすれば何かを考え、この2つのステントの違いは薬剤の塗布の有無です。再狭窄を延長させるために塗布された薬剤に原因があるのではと考えました。使用されている薬剤はシロリムス、パクリタキセル、ゾタロリムス(日本で承認されている医薬品無し)です。内服薬ですがそれぞれの薬剤の心毒性関連副作用を調べてみました。


※添付文書は内服による副作用であり、ステント付着薬物の血管内濃度等は調べていない為直接比較難しいですが参考までに掲載しました。


シロリムス:心嚢液貯留(2.8%)、胸水(3.7%)※添付文書より
FDAによる報告0.12% (https://www.ehealthme.com/ds/sirolimus/cardiotoxicity/
パクリタキセル
不整脈,頻脈,徐脈,期外収縮,高血圧,心悸亢進,心電図異常,心房細動,心室細動,心肥大,狭心症(5%未満)※添付文書より
タクロリムス:
※今回の論文では使用されておりませんが薬剤溶出性ステントで使用されています
心筋障害(ST-T変化、心機能低下、心内腔拡大、壁肥厚等)、心不全心室性あるいは上室性の不整脈心筋梗塞狭心症、心膜液貯留(各0.1~5%未満)
FDAによる報告0.07% (https://www.ehealthme.com/ds/tacrolimus/cardiotoxicity/