薬局業務日誌

薬局で役に立つ情報を綴っていきます。

Graves’ disease(Basedow disease)の治療にはプロピルチオウラシルとチアマゾール(=メチマゾール)どちらが有効ですか?

 発見の時期は多少違いますが、Graves氏はアイルランドの医師、Basedow氏はドイツの医師です。英語圏ではGraves’ diseaseと呼ばれることが多いようです。私はBasedow’ diseaseで習った気がします。

 Basedow病の薬剤というとメルカゾール®(チアマゾール)かプロパジール®(プロピルチオウラシル)しか触ったことが無いです。Basedow病の治療ガイドライン薬物療法はチアマゾール15mg/day(※重症の場合は30mg/day)から開始を推奨している。しかし、添付文書には「通常成人に対しては初期量1日30mgを3~4回に分割経口投与する。症状が重症のときは、1日40~60mgを使用する。機能亢進症状がほぼ消失したなら、1~4週間ごとに漸減し、維持量1日5~10mgを1~2回に分割経口投与する」とあり、ガイドラインの方が用量を低く設定しています。この違いを生み出している根拠はあるのでしょうか?

 検索すると下記の論文がヒットしました。

Comparison of methimazole and propylthiouracil in patients with hyperthyroidism caused by Graves' disease.  PMID: 17389704

<情報の吟味>

いつも通り妥当性を見ていきます。ランダム化は「randomly assigned」とあります。しかしオープンラベルです(どーも日本はオープンラベルが多いですね)。αエラーを0.05、検出力(βエラー)を80%と設定し、検出力検定を行い必要例数82人と算出しています。Table 1を見るとITT解析ではないです。エンドポイントは4,8,12週後のFT4あるいはFT3の正常範囲内値と副作用の頻度としています。妥当性を大きく逸脱する要素は無いようです。

 次にPECOTを立てます。

P:未治療のGraves病と診断された患者303名(男性62人/女性241人)

E:プロピルチオウラシル1日300mg/day投与された群

C:チアマゾール30mg/dayあるいは15mg/dayを投与された群

O:FT4あるいはFT3の正常範囲内値達成率と副作用の頻度

T:12週後の検査値

※試験中は甲状腺ホルモンが正常に改善しなくても用量は変更していません。

<結果>

 甲状腺クリーゼの診断基準はFT3あるいはFT4の高値となっているので重症と軽症の数値の定義は無いようです。この論文では明確に記載はありませんが、FT4が1.7ng/dL以上~7ng/dL未満を軽症例(グループA)、7ng/dL以上を重症例(グループB)と想定しているようです。全体の治療成績はメルカゾール30mg/dayが有意差をもって最も高いですね。重症例では症例数が少なく、有意差が出ていないですがやはりメルカゾール30mg/dayが最も高いです。メルカゾール15mg/dayと比較すると20%程高い治癒率です。軽症例では8%程の差であるのに対し、重症例ではより効果が出ると言えるかもしれません。

 

Table 1

 

Total patients (%)

 < 7ng/dL (%)

≧ 7ng/dL (%)

At 12 wk 

 

 

 

 MMI 30 mg 

82/85(98.8)

62/62(100)

20/23(86.9)

 PTU 300 mg 

54/69 (78.2) 

42/48(87.5)

12/21(57.1)

 MMI 15 mg 

94/109(86.2)

80/87(91.9)

14/22(63.6)

  P valueb

0.003

0.025 

 0.075

次に副作用を見てみましょう。

 (n)

total incidences (%) 

changed medication (%) 

 hepatotoxicity (%) 

urticaria (%) 

leukocytopenia (%) 

MMI 30 mg (130)

39 (30.0) 

28 (21.5) 

9 (6.6) 

29 (22.3) 

0 (0) 

PTU 300 mg (104)

54 (51.9) 

39 (37.5) 

28 (26.9) 

23 (22.1) 

5 (4.8) 

MMI 15 mg (137)

19 (13.9) 

10 (7.3) 

9 (6.6) 

9 (6.6) 

1 (0.7) 

肝障害はプロピルチオウラシルが多いです。蕁麻疹はチアマゾール30mg/dayとプロピルチオウラシル300mg/dayは同程度、チアマゾール15m/dayは少ないですね。今回の論文から言えるのはガイドライン通りまずチアマゾールが第1選択で、軽症例では副作用頻度も考慮し15mg/day、重症例では30mg/dayから開始することが望ましいと言えます。