薬局業務日誌

薬局で役に立つ情報を綴っていきます。

IHME(Institute for Health Metrics and Evaluation)ってナンですか?その2  ~小児の代表的な死因を知りたい(GBDを活用してみました)~

  前回、IHMEの中核事業の一つでありますGHDxの日本のデータを紹介しました。厚労省のホームページで見るよりも遥かに綺麗で、見やすく、しかもアクセスまでの工程も短いです。

 ホント何で自国のデータを他国のデータベースで見た方がわかりやすいとか、ありえんでしょ? 

( 一_一)ハァ~

 ではもう一つ、実は元々はこちらのデータベースが目的でした。

 IHMEの中核事業の一つでありますGlobal Burden of Diseases(GBD)、日本語では世界疾病負荷と訳すようです。疾病・傷害・死亡などにより損失した生活の質、年数を数値で表しています。いくつか指標があるようですが、代表として「障害調整生存年数(DALY:Disability-Adjusted Life-Years)」を紹介します(※細かい点は省きます)。

 DALYは「最大可能生存年数-実際生存年数=損失生存年数(YLL: Years of Life Lost)」と「有障害年数(YLD: Years Lived with Disability)」の和で導き出されます。

噛み砕いていうと、

「本当なら生きられたのに生きられなくなってしまった年数」

「病気や事故などで障害を負ってから亡くなるまでの年数」

を足したものです。

 2013年発表の総DALYsは約25億DALYと推計されています。1)

最も多い原因はIschemic Heart Disease(IHD)で、約3億DALYでした。

 この結果を一四方内に占める面積の割合で、それぞれの要因のDALYを表した図が作成されています↓

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文字が小さいので4か所に分けてそれぞれを細かく見ていきます。

まず右のオレンジ丸から、3色で分けられてます。

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左から「赤・青・緑」、それぞれ感染症及び先天性、非感染症、傷害と分類しています。上下の数値は発生頻度の変化率を表しています。色が濃くなれば増加傾向、薄くなれば減少傾向になるわけです。例えば「HIV」見ると赤黒いですね。感染症なので「赤」のカテゴリーで、色が濃いです。増加傾向にあることがわかります。

 

続いて赤丸の部分にいきましょう↓

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上から、「Single・Explore・Compare」とあります。「Single」では四方図のみが表示されています。「Explore」にすると、さらに世界地図が表示され、国別分布がわかる表示となっています。「Compare」は上下で違う、例えば5歳未満と全年齢のように別カテゴリーを表示できます。

では実際の図を見てみましょう。まず「Explore」から↓

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地図部の表示オプションが追加されています

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↑の画像は「Cause」が「Total All Cause」ですが、IHDなどに表示を変更することが可能です
続いて「Compare」↓

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 上下の図の表示オプションが追加されています。今回Topを5歳未満、Bottomを15~49歳に設定しました。5歳未満のDALYsへ影響する要因として下気道感染症と下痢症が大きいです。要因が成人と全く違うことがこの図により一目でわかります。

 次は「Location」を変えてみましょう。

 え~なんと、「Japan」は県単位で表示できました(※イングランドも地域がありました)↓

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 設定オプションを拡大してみました↓

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 「Kanagawa」にしてます。

 皮膚疾患の占める割合が多く、増加傾向です。

 色分けされて、一目でわかるように工夫されているだけでもスゴイな!と思うのですが、さらに優れた機能が画面に施されています。ポインタを充てると数値もポップアップされます!

 やってみましょう↓

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 先ほど記述した「Skin(皮膚疾患)」の部分にポップアップを表示してみました。

 さらに拡大してみましょう↓

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 「Percent」と「Annual%change」があります。

 「Percent」は今回設定した「地域:神奈川/年齢層:5歳未満」の全DALYに占める割合が「13.21%」であることを示しています。

 「Annual%change」は年次変化率で0.058%上昇していることを示しています。

 細かい数値表のあるページに移動せずに、このページだけで情報が把握できますよね。

 スゴイですね! 楽です! 素晴らしいです!

 元々、小児の死因とその頻度を調査していました。この図でも先天性や事故を除けば、上下気道炎が影響要因であることはある程度わかります。ただ、もう少しはっきりと優先順位をつけたい気がします。そこで最も左端のオプションを使用します。

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 上から4番目の「arrow diagram」を選択すると↓の図が表示されます

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 これでランキング形式に表示することができました。

 

 設定オプションにもポイントがあります。

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 「Level」の項目がありますが、これはカテゴリーレベルです。高いほど細かくカテゴリーできます。レベル3に設定すると単一疾患で分類してくれます。レベル4にするとさらに細かいカテゴリーに分類できます。

 表示してみましょう↓

f:id:kodaiseibutu:20180314131530p:plain  比べるとわかりますが、先ほどの表示よりも細分化されています。

 この図で、先天性・事故を除くと7位にランキングされている「Lower respiratory infect」が最も頻度が多いことがわかりました。他に対応が可能な疾患は「Upper respiratory infect」、「Diarrheal」、「Meningitis(髄膜炎)」と続いています。

 いきなり全ての小児の致死的疾患と原因、対処を勉強するのは難しいですが、出くわす確率が高い、まずはこの4疾患だけであればなんとかやれそうです。

 最後にもう一つ、やはりせっかくの「Global」データなので他国と比較したいですよね。

 先ほどの図のオプションの下から3番目の「Heat map」を選択します

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 すると↓の図が表示されます

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 死因・傷害ランキングの各国との比較が表示できました。「Neonatal sepsis(新生児敗血症)」は日本では15位ですが、Top10にランキングしている先進国が多いことがわかります。致死率の高い疾患ですから日本の周産期医療が優れていることがわかります。

 いかがだったでしょうか? 

 スゴイですね (^_^;) ここまで差がありますかね…

正直、申し訳ないですが厚労省のデータを見る気がなくなりました

是非皆さんもIHMEのホームページを活用してみてはいかがでしょうか?

 

 

1) Global, regional, and national disability-adjusted life years (DALYs) for 306 diseases and injuries and healthy life expectancy (HALE) for 188 countries, 1990-2013: quantifying the epidemiological transition. PMID:26321261