年齢と認知機能と交通事故の関係
ここ数年、月に一度は報道のある高齢ドライバーによる交通事故報道、NHKのクローズアップ現代でも2年毎に3度も題材として取り上げられました。
・2014年7月8日(火) 放送「運転し続けたい」
・2016年12月6日(火) 放送「どう防ぐ?高齢ドライバー事故 徹底研究!」
・2018年6月7日(木) 放送「90歳事故で議論再燃!? 高齢者の運転どう考える」
確かに一般的に高齢になれば視覚・聴覚・認知機能など運転能力に大きくかかわる能力が低下することを考えるとなんとなく運転は危ないかも?と思うのは自然なことです。しかし一般的なイメージと事実に乖離があることは多々あります。そこを埋めるのはやはりデータではないでしょうか。ということで見ていきたいと思います。まずは年齢と交通事故の関係から。示すデータは警視庁により作成された交通事故統計です。図1は平成29年の10万人当たりの年齢別交通事故件数です。
図1 年齢別交通事故件数(10万人当たり:2017年日本)
突出して多いのは10代ですね。75歳以上と20代では同程度むしろ少ないぐらいでした。ただこれだけでは事実を十分に検証したとは言えないでしょう。よく報道される事故はインパクトの強い死傷者を出したような事故です。もし死傷者を出すような重大な事故との関連が強ければやはり対策が必要かもしれません。図2に平成29年の10万人当たりの年齢別死亡事故件数を示しました。このデータも警視庁交通事故統計から作成しました。
図2 年齢別死亡事故件数(10万人当たり:2017年日本)
20代の件数が多いですね。次いで40代後半、他はだいたい同じ程度でした。ここでさらに念のため他の国ではどうなのかを検証してみました。図3に2016年アメリカの10万人当たりの年齢別死亡事故件数を示しました。
図3 年齢別死亡事故件数(10万人当たり:2016年アメリカ)
(Traffic Safety Facts 2016より:NHTSA作成)
年齢層の区切りが少し異なりますが、アメリカにおいても20代、30代による死亡事故が多いとう結果でした。日本でもアメリカでも事故全般及び死亡事故に絞ったデータにおいても年齢の上昇と件数に正の相関は見出せませんでした。昨今の高齢ドライバーによる事故報道がいかに見当外れであるかがよくわかります。マスコミの報道は信じるべきではありませんね。
ここまでは高齢ドライバーと事故の関連を検証してきました。もう1つ同時に取り上げられるのが認知症です。「認知症があった」などと付け加えられることが多いです。認知機能も一般的に年齢の上昇とともに低下するイメージがありますから付加情報として取り上げられるのでしょう。これもやはりデータを検証してみたいと思います。下記はアルツハイマー型認知症患者とそうでない方で交通事故発生率に違いがあるかを検証した論文です。
Characteristics of motor vehicle crashes of drivers with dementia of the Alzheimer type.
PMID: 10642016 ※abstractのみ
平均年齢77歳の被験者121人(認知症のない58人の高齢ドライバーおよび63人のアルツハイマー型認知症のドライバー)を対象に検討しました。結果は双方の事故発生率に明確な違いは見出せなかったとしています。
もう一つ、事故発生率ではなく、運転の安全性に関するエラーを比較した論文です。
Predictors of driving safety in early Alzheimer disease. PMID: 19204261 ※全文読めます。
早期アルツハイマー型認知症の可能性がある40人の高齢ドライバー(ミニメンタルステート検査スコアの平均26.5点)及び神経疾患のない115人の高齢ドライバーを対象に判断能力、視覚能、運転技術のテストを行い、その後都市部および農村部で35マイルの実走試験を行いました。早期アルツハイマー型認知症群は判断能力、視覚能及び運転技術これらのテストのほぼ全てにおいて対照群より悪い結果でした。しかし、実走試験では中心ラインのはみだし、踏切でのエラー以外はほぼ同じ程度でした。これらの文献から認知症と事故率が関連していると結論付けることはできないと言えます。
事実とは違う偏見報道は医療費の問題でもありました。どちらも対象は高齢者でした。これに関してはまた別の機会に考察したいと思います。
とはいえ、本人あるいはご家族が認知症と診断されて車の運転に不安を感じられている方もいると思います。次は認知症の方において運転の是非をどう判断すればいいのか? 危険な兆候、レッドフラッグに関して記したいと思います。