薬局業務日誌

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血圧管理の新時代 -高血圧はOTCで治療する-

 NIPPON DATA2010によると高血圧患者数は約4300万人と推定されているそうです。国民の約半数が罹患しており、薬局においても降圧剤を触らない日が無いほど薬物治療において最もメジャーな疾患の一つです。

 高血圧の治療は降圧剤の投与が最も一般的です。ほとんどの人がクリニックを受診し血圧測定などのバイタルチェックを受け、処方された降圧剤を服用していると思います。ここでこの流れに疑問を持つ方はどれほどいるでしょうか? 何が疑問か? それは血圧測定をクリニックで行う必要があるのか?ということです。高血圧治療の管理は必ず受診する必要があるのでしょうか? 

ここで2つの論文をご紹介します。

Self-monitoring of blood pressure for improving adherence to antihypertensive medicines and blood pressure control: a randomized controlled trial.  PMID: 24771706 

Efficacy of self-monitored blood pressure, with or without telemonitoring, for titration of antihypertensive medication (TASMINH4): an unmasked randomised controlled trial.  PMID: 29499873

 上から順にご紹介します。1つ目の論文は18歳以上の患者の軽度から中等度の高血圧症患者(140 / 90~159 / 99mm Hg:除外は二次性高血圧、重度の心血管合併症、血清クレアチニン1.5㎎/dl以上)を対象に、通常の外来受診管理と手首式自動血圧測定器による毎日1回の測定において血圧管理に差があるかを検証した研究です。評価は全3回4週間目、12週目、24週目。期間は24週間(約半年)行われました。薬物治療はどちらの群も同様の治療が行われています。結果は以下の通りでした。

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 外来受診でもセルフ測定でも血圧推移に差は認められませんでした。降圧剤の数と服薬アドヒアランスについても解析しています。

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服薬アドヒアランスと降圧剤の数も全観察期間を通してほぼ差はみられません。治療の寄与はどちらも同様ですから血圧の推移が同様であるのであればセルフ測定でも問題ないと言えます。ただこの著者はセルフ測定で管理が良くなるという前提でいたようで、セルフ測定の方がメリットがあるとは言えなかったとマイナス的な結論でした。同等だから受診しなくてもいいんは十分メリットがあると思いますけどね(笑)。

 2つ目の論文も同様のものですが、1つ群が多いです。外来受診とセルフ測定に加えて遠隔監視群が追加された試験です。遠隔監視はセルフ測定結果をwebで入力して送信する方法です。高血圧と診断された35歳以上、3剤以下の降圧薬を服用しているが血圧が140/90 mm Hg以下に制御されていない方を対象としています。起立性低血圧、心房細動、認知症、またはグレード4以下の慢性腎臓病、またはタンパク尿を伴う慢性腎臓病は除外。結果は以下の通りでした。

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 1年間行われたこの研究でも血圧の推移に大きな違いはありませんでした。この研究では服薬アドヒアランスの分析は行われていませんが薬剤数の分析はあります。

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降圧剤の数もまたどの群においても大きな違いはありませんでした。この研究においても血圧管理は外来受診とセルフモニタリングどちらも同等でした。

 香港の疫学調査(PMID:18556342)によると1862人の調査で血圧異常のみが約14%、血圧異常と耐糖能異常が約14%でした。血圧異常の内の約半数は高血圧のみです。この高血圧のみだけでもセルフモニタリングで管理することは外来受診頻度を下げ、医師・患者双方に負担軽減が可能です。さらに降圧剤を薬局だけで払い出せれば、なお利便性は上がることでしょう。まあ凝り固まった既成概念に囚われている日本で実現することは100年経っても難しいかもしれませんが...