薬局業務日誌

薬局で役に立つ情報を綴っていきます。

週3回は夕食のみ.あとは2食のゆるゆる食事制限で糖尿病を改善 

 糖尿病治療薬であるDPP-4阻害薬の有名な?大規模臨床試験にTECOS(sitagliptin群:7,332例vsプラセボ群:7,339例)やEXAMINE(alogliptin群:2701例vsプラセボ群:2679例)があります。これらの試験の目的は、同じく糖尿病治療薬であるSU剤において心血管リスクの上昇が示唆されたため、同効薬として心血管リスクを上昇させないかを検討した安全性試験です。ですからデザインとしてマイナスが無いかどうかを検討する非劣性試験を選択しているわけです。この研究で得られる結果は、少なくともプラセボと比較してリスクを上昇させないか否かです。この結果をもって効果など語れません。そんな設定を立てていないのですから。結果は心血管イベントリスクはプラセボと同じぐらいだったといっているだけです。

1新薬を上市するために必要な費用は約88億円、フェーズⅢだけで30億円ほどかかっているそうです(医薬産業政策研究所資料より)。薬の効果が偶然か否かの精度を高めるには例数が必要です。それには多額の費用が掛かります。しかし結果は散々たるものでした。

1つの研究をご紹介します。この研究の例数はたった3例です。

Therapeutic use of intermittent fasting for people with type 2 diabetes as an alternative to insulin. 

PMID: 30301822

参加された方のプロフィール

1人目(①):

40歳男性、糖尿病と診断されて20年。合併症は高血圧と脂質異常症。糖尿病の治療は寝る前にインスリングラルギンを58単位、インスリンアスパルトを22単位1日2回、カナグリフロジン300㎎1日1回、メトホルミン1g1日2回。

2人目(②):

52歳男性、糖尿病と診断されて25年。合併症は慢性腎不全、腎細胞がん(摘出手術を受けている)、高コレステロール血症。糖尿病の治療はインスリンリスプロMIXを1日2回38or32単位と25単位。

3人目(③):

67歳男性、糖尿病と診断されて10年。合併症は高血圧、高コレステロール血症。糖尿病の治療はメトホルミン1g1日2回、インスリンリスプロMIXを朝25~30単位、夜20単位。

 方法は1週間のうち3回、食事制限を数か月行いました。各々のやり方は以下の通りです。

 ①:7か月間、週3回どこかで食事制限

 ②:11か月間、週3回どこかで食事制限

 ③:11か月間、1日おきに食事制限

週3回の食事制限の内容は夕食のみというもの。制限時以外は昼食と夕食を摂れます。食事自体は低炭水化物食が推奨されました。

※安全対策

・試験を始める前に食事量を減らすため、インスリン量も減量

インスリンを中止するまでの数週間は隔週受診でフォロー

・何らかの理由で体調不良の場合は中止

・6時間の栄養学、病態生理学、インスリンについてなどの講習を受けている

結果は以下の通りでした。

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驚くべきことに3人ともインスリンを中止することができました。

この研究結果をどう思われるでしょうか? 

統計的に言えば “N=3で有意差などでない、偶然の可能性は否定できない“

確かにそうかもしれません。しかしこの研究デザインは

・通常の診療に組み込みやすい

・大規模臨床試験のような大掛かりな手続きも不要で低コスト

・結果が出なかったとしても医薬品開発費がかかっているわけではないから何度でもトライ可能

今回の検討がたとえ全て偶然の結果であっても追加試験をやらない・やれない理由がありません。大規模であれば、統計的デザインがしっかりしていればいいってもんではないですね。